2025.02.14
日本三大美人湯の一つとして知られる”川中温泉かど半旅館”。その若旦那として、三代目の小林さんは静かに、しかし確かな信念を胸に旅館を守り続けています。
祖母の他界をきっかけに家業に戻った25歳当時、慣れない経営や設備投資、そして父親との意見の衝突など、数々の困難が待ち受けていました。
それでも、「お客様に温泉の魅力を伝えたい」という想いを大切に、一歩ずつ歩みを進めています。本記事では、温泉の歴史や小林さんの挑戦、そして田舎ならではの人と人との繋がりの温かさが、一つ一つの言葉から感じる時間となりました。
(小:小林さん イ:インタビュア)
イ:「家が旅館って、今では珍しいですよね。いつから「自分が継ぐんだ」って思っていたんですか?」
小:「そうですね、子供の頃から自然とそう思っていました。『長男だからいずれは自分の役目だろうな』っていう
感覚ですね。でも、特別なタイミングがあったわけではないんです。」
イ:「いわゆる”家業を継ぐ覚悟を決めた日!”みたいなのはなかったんですね。」
小:「はい。振り返ってみると、もっと自分の人生設計を考えて準備すべきだったと思います。例えば、調理の専
門学校に進むとか、経営に必要な簿記を学ぶとか。でもその頃は深く考えずに普通科の高校を選びました。」
イ:「それでも、普通の進路を選ばれたんですね。一度、外の社会に出て働いてみた経験もあるんですか?」
小:「はい。神奈川の大学を卒業した後、某スーパーで2年間働きました。そこでは接客や在庫管理を学びましたが、それ以上に”働く厳しさ”を実感しましたね。」
イ:「その経験が今に活きている場面ってありますか?」
小:「はい、スーパーでは多様な人と関わる仕事だったので、人と接することの難しさと面白さを学べました。そ
れが、旅館でのお客様対応にも繋がっていると感じます。」
イ:「スーパーの仕事から旅館に戻ることになったきっかけは?」
小:「祖母が亡くなったことです。祖母も旅館の仕事を手伝っていたので、その穴を埋める必要がありました。当
時25歳くらいで、戻るにはまだ早いと思っていましたが、家業が回らなくなる状況を見て決断しました。」
イ:「若くして家業に戻るのは大変だったでしょう。お父様と意見が衝突したりしませんでしたか?」
小:「ありましたよ(笑)。父は町内の役員活動が忙しく、家を空けることが多かったんです。その分、母が現場を回していたのですが、僕は”現場第一主義”だったので、父とはよく衝突しました。「お客様をもっと大事にしよう」という考えが合わなかったんです。」
イ:「戻られてから”これは自分がやるしかない!”と思ったことってありますか?」
小:「たくさんあります。例えば、Wi-Fiの導入ですね。僕が戻った頃はまだガラケーが主流で、電波すら入らない場所でした。でも、お客様が快適に過ごせるよう、時代の変化に合わせて整備を進めてきました。」
イ:「Wi-Fiが当たり前の時代になって、その整備は大切ですよね。」
小:「そうですね。あとは団体客が減り、個人のお客さんが増えたので各部屋で施錠ができるように進めました。
ただ、旅館の設備投資って簡単ではないんです。補助金を活用できる場合もありますが、何を優先すべきかは常に考えています。」
イ:「旅館業ってお客様との距離が近いイメージがあります。サービスに関して、大切にされていることは何です
か?」
小:「川中温泉の魅力をしっかり伝えたいという思いですね。この温泉はぬるめの湯が特徴で、”長く浸かってリラックスできる”とお客様に喜ばれています。都会の喧騒から離れ、静かな時間を楽しんでいただけるのが強みです。」
イ:「川中温泉ってすごく歴史がある場所ですよね。」
小:「はい。温泉自体は鎌倉時代に発見されたと言われています。当時、源頼朝が家来たちと一緒に温泉を探していた際、川中温泉も見つかったとか。」
イ:「すごい歴史があるんですね。」
小:「そうですね。川中温泉は周囲を豊かな自然に囲まれていて、訪れるだけで歴史を感じることができます。建物自体は昭和20年に再建されたものですが、それでも古き良き旅館の趣を残すよう心掛けています。」
イ:「温泉の成分や特徴についても詳しく教えていただけますか?」
小:「この温泉の大きな特徴は、アルカリ性で肌に優しいことですね。”美人湯”として知られていて、肌がすべすべになるとお客様からも好評なんです。源泉の温度は35℃と少しぬるめで、体に負担がかからず長時間入浴を楽しむことができます。」
イ:「ぬるめの温泉って珍しいですよね。その特徴を活かした楽しみ方ってあるんでしょうか?」
小:「そうなんです。ぬるめの温泉は夏場に特におすすめですね。暑い季節に熱い温泉だと少ししんどいと感じる方もいますが、川中温泉ならちょうど良い湯加減でリラックスしていただけます。しかも、夏場でも涼しい風を感じながらゆっくり浸かれるので、体も心も癒されると好評です。」
イ:「お話を聞くだけでも、じっくり浸かりたくなります。草津温泉との組み合わせというお話も興味深いですね。」
小:「草津温泉は強酸性で、殺菌作用が強いことで知られています。一方、川中温泉はアルカリ性で保湿効果が高いので、肌を整えるには最適な組み合わせなんです。草津でしっかりと肌を清潔にしてから、川中温泉に浸かって肌に潤いを与えるという流れがおすすめです。」
イ:「まるで自然のスパのような体験ですね。」
小:「はい。その通りです。さらに川中温泉では、温泉そのものだけでなく、自然を感じながらゆったりと時間を過ごすことができる点も魅力です。温泉の温(ぬる)さと自然の音が調和する中で、体だけでなく心もリセットされる場所だと思っています。」
イ:「川中温泉もそうですが、東吾妻町自体に魅力を感じている部分ってどんなところですか?」
小:「良くも悪くも「田舎」であることですね。人が少ない分、トラブルも少なくて静かに過ごせます。東京の民泊のような喧騒はありませんし、心穏やかに仕事ができます。」
イ:「地域の人々とのつながりも大切にされていますよね。」
小:「そうですね。例えば、さっき来ていた大工さんは昔からの知り合いで、親子ほどの付き合いがあります。田舎ならではの”義理人情”の文化が、僕にとっての安心感になっています。」
イ:「確かに、都会ではなかなか築けない関係性ですよね。」
小:「そう思います。仕事もお金のためだけではなく、人と人とのつながりを大事にしている感覚があります。これが東吾妻町の良さだと感じます。」
イ:「最後に、小林さんが営業する上で大切にしていることは何ですか?」
小:「お客様に”無事に帰っていただくこと”が一番大事ですね。楽しい思い出を持ち帰っていただければ、それが何よりです。」
イ:「旅館で働く中での苦労はありますか?」
小:「毎日同じような作業をしているようでも、お客様一人ひとりが違うので、単調ではありません。むしろ集中していると、時間が経つのを忘れることもあります。」
イ:「そんな温泉や旅館の運営が、小林さんにとっても生活の一部なんですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。」
小:「こちらこそありがとうございました。またぜひ遊びに来てください。」
情報
【 川中温泉 吾妻渓谷温泉郷 かど半旅館 】
<住所> 群馬県 吾妻郡東吾妻町松谷2432
<営業時間> 不定休(要問い合わせ) ※宿泊のみ
<電話> 0279-67-3314
<FAX> 0279-67-3153
<URL> https://www.kawanaka-kadohan.com/
<X(旧Twitter)> https://x.com/kadohanryokan